佐谷氏の千々和泰明『日米同盟の地政学:「5つの死角」を問い直す』という記事に刺激されて『日米同盟の地政学』を借りてきて読んだ。
私にとっては、ウクライナ侵攻は大きなショックだった。私のロシア(からイスラエルに移住した)友人のショックの受け方も印象的だった。その後ハマスによるテロ事件が起き、引き続いて私がパレスチナ人ナチス級大虐殺と考えている事件が起きている。それから約1年が経過したが、出口は見えていない。
89年にベルリンの壁が崩壊した時にはこれで戦争の時代は終わったと思ったが、現実はそんなに甘いものではなかった。
日米同盟の政治学の目次
はじめに
第1章 基地使用
第2章 部隊運用
第3章 事態対処
第4章 出口戦略
第5章 拡大抑止
おわりに
あとがき
目次だけからでは簡単に想像できないが、日米同盟の構造と意図、課題が体系的にまとめられていて読み手の価値観によって内容や主張に対する評価は分かれるだろうと思うが、私は良著だと思う。防衛研究所主任研究官だという。
はじめにのつかみ「なぜポツダム宣言にはスターリンの署名がないのか」で氏の解釈に引き込まれた。弱肉強食の世界で覇権争いの決勝リーグで起きた事象なのだろう。日本や枢軸国とレッテルを貼られた国々は予選リーグで敗退した。オリンピックと違うのは、勝者も敗者も大量の人命を失う非人道的な競技だったところにある。
1章の基地使用は、一般人にとっては基地問題と読み替えたほうが理解しやすい。日本は大量の人命を失っただけでなく権益も失い敗戦とともに自決権も失った。独立を回復しても残ったのは基地問題である。日本人の視点では失われた独立、被占領国時代の残滓でもあり、性被害やPFASなどの実害を伴う忌避すべき負の遺産である。しかし、距離をおいてみれば、基地使用なくして日本の存続なしという解釈もあり得る。
2章の部隊運用は、一般人にとっては「日本は指揮権をとる資格はない」と読み替えたほうが理解しやすい。アメリカでは独占禁止法が形骸化しているが、軍事の視点では寡占が今においても継続されている。東西二極対立は中国を含む三極化しているが、勝馬におもねることで生き残ろうとする未成熟状態は解消されていない。
3章の事態対処は、「国家権力の維持」と読み替えて読むと良い。似て非なる主権の維持ではない。
4章の出口戦略は私にはとても有意義に思われた章だった。ウクライナ侵攻、ガザ・パレスチナ問題では出口が見えない。冷徹に現実を見据えた上で、力による支配ではなく、あるべき平和な未来をどう設計するかを考えることができる。
5章の拡大抑止は、核の傘の考察でもあるが、「恐怖の支配か、レジリエンスか」と改題して大幅改定しても良いのではないかと思う。
紛争、戦争は弱いものにつけを回す。選民思想は中長期的には自国を破壊することは分かったような気がする。保守は亡国だ。
可能であれば、今秋の欧州滞在時にAfDが躍進するドイツも訪問したい。ベルリンの壁崩壊から35年。油断は禁物である。