スティグリッツ PROGRESSIVE CAPITALISM(プログレッシブ キャピタリズム)読了。
まえがきで共和党の考え方について「第1に、一般市民は短絡的で、小幅ながらも減税という言葉に目を奪われ、それが一時的なことにも、中間層の大半で増税になることにも気づかないにろうということ、そして第2に、アメリカの民主主義で本当に重要なのは金だということだ。」と書いている。現実主義の闇と言える。2つの仮説は現実に基づいているが、少し引いてみれば一般市民が自らの未来を自ら捨てていることにほかならないのは歴史が証明している。「第1部 迷走する資本主義」はアメリカが陥っている問題を解き明かしている。
外向的に現実主義を進めると「国同士の関係を「力(軍事や経済)による奪い合い」と捉え、国の利益や安全を守ることを最優先する考え方」という右派的な考えに行き着くが、ほぼ100%慢心に至り破綻する。結局一般市民が割りを食うことになる。しかし、減税と金の仮説は短期的に有利に働くのが現実である。それじゃあんまりだから俺が対案を出すというのがこの本の目的と考えて良いだろう。
まえがきの最後に現代の経済学の(著者の)考え方として10項目を挙げている。「第2部 政治と経済を再建するために」で主張することは、この10項目を原点にしているので触れておきたい。
第1に、市場の力に頼るだけでは、豊かさを共有することも、持続していくこともできない
第2に、国富は2つの柱を基礎にしている。1つは、知識、もう 1つは、優れた社会組織
第3に、国の富と、その国にいる特定の個人の富とを混同してはならない
第4に、分断の少ない社会、格差の少ない経済のほうがうまく機能する
第5に、政府は、市場所得の分配(当初分配)と再分配(課税・移転後に個人が受け取る所得)双方に目を配る必要がある
第6に、競争のルールなど、経済や社会のさまざまな面が政府次第であるため、政府が何をするかが重要になる
第7に、1970年代初め以来信奉してきたアメリカ流の資本主義に基づく価値観が、より高い価値観との衝突を引き起こしている
第8に、トランプを始め、移民排斥や保護主義を主張する人たちは、現在の苦境を他人(移民や貿易協定)のせいにしようとする
第9に、包括的な経済政策が、成長の回復や豊かさの普及をもたらす
最後に、いまこそ大々的な転換を遂げるときで、経済の転換は、過剰な富がもたらす政治力に対抗し得る力強い民主主義が必要
9番目を除いて7番目以降は著者の思いが強く反映されている気がするが、こういう考え方で書かれている本であることを前提におけば読みやすいだろう。
第一部では「第3章 搾取と市場支配力」が象徴的だが、独占が利益を生むのは短期的には自明で、バフェットやシカゴ学派の言葉を引用するまでもなく資本主義だと独占を達成できそうな企業に投資すればリターンが大きいという論理的帰結を招く。原資は有限だから、社会の発展や持続性に資する事業への投資資金が博打(レントシーキング)に回るということだ。
第3章に書かれているわけではないが、この博打(賭け金)が大きいので、成り上がりを目論む外国人が呼び寄せられる。自分の国にいるより遥かに大きな富が得られるかも知れないと思えば、移住する人は出るし、例えば一昔前のシリコンバレーであれば、周り中にすごい能力を持った人がたくさんいるので、自分の成長を加速することもできる。レントシーカーの10分の1あるいは1万分の1のリワードしか無かったとしてもなお挑戦のインセンティブはある。挑戦者は必ずしも金権主義ではなく、イノベーションへの挑戦者であることも多いのだが、それでも食って行けなければ挑戦はできない。「1970年代初め以来信奉してきたアメリカ流の資本主義に基づく価値観」は、世界は広いから投資マネーを集めさえすれば他国で基礎教育と技術力を獲得した金の卵を生む鶏を集められるから国民に対する教育投資など不要で、鶏の管理方法と産んだ卵の換金手法を確立すればよいという形に流れていく。20世紀末にシリコンバレーに通っていた頃、スタンフォード大の教授が、データベース関連の論文で中国人研究者が執筆するものが多数になったのを問題視していたのを思い出す。評価システムはしっかりしていたので、それは明らかに米国の教育システムが既に中国に負けていたことを示していたということだろう。日本人研究者は金も一緒に持ってくるので大事にされていたし、高等教育システムもアメリカのそれより高く評価されていたが、研究成果への期待度は高くなかったと感じていた。私は、技術とビジネス開発を社内使命としていたので、別にその期待度の低さは気にならなかったが、今思い返すと、彼女はスティグリッツの主張と通底する感覚を持っていたということになる。
第二部は、ただ真っ当なことが書かれているという感想しか無い。一方、日本での竹中に始まる新自由主義、安倍やっているふり搾取と麻生のレントシーキング指向を支持する勢力の台頭が、中身のない高市の異常なまでの高支持率を招いている。下手に権力を与えればトランプと同じ災厄を日本にもたらすだろう。この書籍はアメリカの政治・経済をグローバル視点を交えて書いている本だと読んだが、日本の政治・経済は私たちの生活に直結している。人気投票ではなく、冷静に考えなければ先の敗戦を繰り返すだけだ。
一言で言えば、「強い国」あるいは選民指向は国民を(戦争と飢えで)殺すだけだということを書いたものだと思う。