あきらめません!読了。佐谷氏のメールマガジンで紹介されているので借りて読んでみた。公式ページにあるように「痛快選挙小説」と言ってよいだろう。
私は今年65歳を回り、老齢年金の受給も始まるなど様々な変化が起きている。主人公と同じようにセカンドライフの時期を迎えたと言っても良い。決して悠々自適とは言えないが、もう筋の通らないことはやらないと思える程度には安定している。いつ、安定が崩れるかはわからないが、現時点での自決権の幅は一定程度ある。
本小説の主人公夫婦が考えることは想像できるし、人生には突然転機が訪れることはある。そして、意外と世間は狭く、動いていれば、思わぬところに繋がりがあったりすることに気付かされることもある。良いと思って覚悟したことがうまくいかなくて凹むのは日常茶飯事だし、小説のような奇跡はほとんど起こらない。しかし、「ほとんど」は「ゼロ」ではない。奇跡的なことが起きることはある。変化は希望となることもあれば、安住を求める人の脅威となることもある。
読み終わってもう一度振り返ってみると、この小説には基本的に善人しか出てこない。気の緩んだ老人や既得権益者は何人も出てくるが、本格的な悪人は出てこない。しかし、気の緩みの蓄積が腐敗を生み、税金の好ましい使い方ができず町の緩慢な死に向かって転げ落ちていくのは少し考えるだけでわかる。その指標として若い女性が出ていって二度と帰ってこないという現実的判断が合理的なものだと気付かされる。日本の縮図でもあり、アメリカの縮図でもある。まず間違いなく私も気の緩んだ老人の一人であり、淘汰される側にあるが、淘汰されるべきものであれば淘汰されればそれで良いのだ。無意識に享受している権益が奪われたとしても、誰ひとり取り残さない世界が到来したら良いなと思わされる。
ロサンゼルスの州兵、海兵隊の派兵が問題となっているが、カリフォルニアが豊かなのは事実だとしても、決して皆が豊かなわけではない。没落はあるし、格差も激しい。稼ぎが得られる人もあるが、得られない人もある。その退潮につけ込んで悪者探しを煽るものが現れるのはわかるが、実際にはなんとか共に生きていく道を探す以外に道などありはしないのだ。富の再配分を機能させ、全体の生産性を上げつつ格差を縮める努力をするしかない。
小説だから、誰かが立ち上がって勝ち上がっていくシナリオになっているが、本質的には善意の覚醒と多様性の許容、そしてできる限りの努力の集積しかない。そんなあたり前のことを気が付かせてくれる本だ。